「アルシミスト」の山本健一さんは8年間のフランス修業中、各地で郷土料理に親しみ、リヨンやニース、パリでは高級店の仕事に触れた。そして修業の仕上げに入店したパリの「ル・シャトーブリアン」で、店とお客が一体となって醸し出す熱気に圧倒されるとともに、フランス料理に対して持っていた固定観念を打ち砕かれたという。
「シェフのイナキ（エズピタルト氏）はコショウやローリエなど私があたり前に使っていた食材の必要性を常に吟味し、独創的な料理を生み出していた。私も既存の料理の再現ではない『私自身の料理』を作りたいと思うようになりました」
　独立した今、山本さんはそうした体験を全9〜10皿のおまかせコース（7875円）に注ぎ込んで提供する。７月のある日のコースは、フォワグラのブリュレがベースの「いちじく フォアグラ」と、凍らせたフォワグラのテリーヌをレンズマメのスープに削り入れる「レンズ豆 フォアグラ」の２品ではじまり、トウモロコシのスープ、片面だけ焼いたホタテにカボチャのピュレ、ココナッツの泡を合わせた「かぼちゃ ココナッツ ホタテ」、同じく半生に焼いた白イカやヒヨコマメに客前で鴨のブイヨンをかける「白いか 鴨のブイヨン」と続く。そして魚料理「人参 サフラン 尾長鯛」、肉料理「ししとう ローズポーク」、チーズ、デザート２品という流れだ。食材の意外な組合せに目がいくが、ソースやジュには現地で学んだ古典の技法が生かされているという。
「おまかせにさせていただくからには、しっかり作り込んだ料理を出したい。第一、フォンやジュは食材の最高のリサイクル。関西人なので無駄にはできません（笑）」
「やりたいことは無数にある」と話す山本さん。徐々に人手を増やし、料理の幅を広げながらル・シャトーブリアンの活気を東京の地で再現していくつもりだ。