雨後晴(渋谷・恵比寿・代官山)
確かな技術を持った板前がつくる日本料理を手頃な価格で味わえる店をつくりたい――。2011年3月に東京・恵比寿にオープンした「雨後晴」は、店主である村上宗氏のそうした想いを具現化した日本料理店である。
村上氏は前職で商業施設のレストラン誘致などを手がけるコンサルタント業に身を置いていた。その時に「和食のマーケットは居酒屋などの客単価3000円前後の店と割烹や料亭といった同1万円超の店との間を埋める業態が乏しい」と感じており、潜在的なニーズを掘り起こすべく客単価5000円台の日本料理店の開発に着手した。
「アルコールの注文が想定以上に多かった」(村上氏)ために実際の客単価は6800円におよんでいるが、村上氏の狙い通りに雨後晴は圧倒的な集客パワーを発揮する。開業から半年もすると20坪30席の店内は連日予約客だけで満席になる盛況ぶり。売上げは右肩上がりを続けており、目下のところ月商は550万円に達している。
グループ客利用に照準を絞る
「業態開発においては日本料理店の敷居をいかに下げていくかが重点テーマでした」と村上氏は語るが、そのために雨後晴では3~4人のグループ客利用に照準を絞った店づくりを施していることが注目される。客席はテーブル席が中心。和食店の定番ともいえるカウンター席は設置していないが、これは「板前を目の前にするカウンター席だとどうしても畏まった雰囲気になってしまう」(村上氏)と考えたためだ。
フードは鮮魚料理を主力とし、おまかせコース3種3990円~とアラカルト35品前後でメニューを構成しているが、商品設計においては料理のボリュームを重視している点が特筆される。名物料理は造り盛合せ840円~、極上金目鯛一本煮付け4410円、極上のどぐろ塩焼き2730円〜。造り盛合せは姿造りを加えた商品(+420円~)も用意し、器に土鍋を使用して豪快に盛りつける。また、高級魚として知られる金目鯛やノドグロを一尾丸ごと料理することで、豪華さを前面に訴求している。
「造り盛合せは大皿に料理をめいっぱい盛った土佐の皿鉢料理をイメージ。気の置けない仲間と大皿料理を囲むという利用シーンを提案することで、居酒屋感覚で日本料理を食べていただきたいと考えました」と村上氏はその意図を説明する。
料理長には大阪の日本料理店で15年以上の経験を積んだ吉沼貴史氏を迎えており、和の技法を駆使した創作料理なども積極的にメニューに加えている。一方、開業にあたり、村上氏はおよそ半年間にわたって漁業と市場の仲卸に従事。その経験から「高品質とコストダウンを両立するには産地から直接仕入れるしかない」と判断し、静岡・沼津や三崎、富山・新湊など、5つの漁港の産直ルートを開拓した。
鮮魚は週3回のペースで各漁港から仕入れるが、一般流通には乗らない希少な魚種を入手できるのも産直の大きなメリット。だが、「魚種それぞれに適した食材管理や調理方法を施すために料理人の高い技術が欠かせません」と村上氏は強調する。
一方、アルコールでもっとも売れるのが日本酒だ。日本酒は20種類前後を常備するが、村上氏が納得した銘柄だけを揃えるために仕入れ元は8ヵ所にもおよぶ。メニュー表には磯自慢や田酒といった名の知れた日本酒を中心に12種類を表記し、残りを隠れメニューとして提案。村上氏が前述しているように、それが想定以上の注文につながり、アルコール売上げ比率は40%におよんでいる。
また、食器や酒器などには300万円を投資して一品ものや作家ものを揃えていることも見逃せないポイントだ。カジュアルなスタイルを打ち出しながら、細部で付加価値を追求する。それが集客力を下支えしているのである。
DATA
TEL.03-5734-1571
営業時間:月~金11時30分~14時30分、18時~23時30分(L.O.22時30分) 土17時~23時30分(L.O.22時30分)
日曜・祝日
オープン:2011年3月
店舗規模:20坪30席
客単価:6800円
月商:550万円
原価率: 30%
アルコール売上げ比率: 40%
URL: http://www.amenochihare.jp/