広瀬 亮さん（36歳）は都内のフランス料理店を経て渡仏し、2年半修業。帰国後は外食企業でメニュー開発や大型店舗の厨房運営にも携わった。そうした経験をもとに、独立にあたっては①豊富な品数、②手頃な価格、③特徴のある商品作り、といった条件を設定。とくに③に関しては、「内臓＝アバ」をメニューの主役に据えることを決めた。
「もともとシャルキュティエのような職人仕事が好きでしたが、決定的だったのは内臓料理の専門書『モツ・キュイジーヌ』（弊社刊）を読んだこと。手間をかけておいしさを引き出す職人的な料理が喜ばれる時代が来た！と感激しました」
　東京・中目黒に開いた自店では60種超の料理を用意。うち40％ほどを内臓料理が占める。内臓類は週に1回程度まとめて仕込み、ア・ラ・ミニッツでさまざまな料理へと発展させることで、広瀬さんl人で無理なく調理できる体制を整えた。
　人気メニューの「アバジュレ」（600円）は、ハチノス（牛の第二胃）、センマイ（同・第三胃）、牛のアキレス腱、豚の耳、豚の直腸などのゼリー寄せ。シェリーヴィネガーでさわやかに仕立て、かつ手頃な価格として、内臓を食べ慣れないお客に「これなら大丈夫と安心してもらう」（広瀬氏）ことを狙ったものだ。
　他にも内臓類をハチノスの煮汁とコンソメで煮込んだ「アバ汁」（1250円）や、豚足に鶏のムースとフォワグラを合わせてオーブンで焼いた「豚足爆弾」（1800円）など、本格的なフランス料理を親しみやすいネーミングで提供。東日本大震災直後の開店だったが、連日満席の盛況を続けてきた。「定食屋を営む父から、『絶対に失敗しない確信が持てるまで店はやるな』と厳しく言われました。その教えを守ったからこそ、飲食店にとって厳しい時期にもぶれずにやってこられたのだと思います」と広瀬さんは話す。