日本の伝統食品
葛粉
(奈良県・吉野郡)
底冷えする吉野の風土が育む純白。
葛粉作りはひたすら水で清める仕事。
日本で古くから親しまれてきた上質なでんぷん、葛粉。その葛粉を作る時季は12~翌3月。厳冬の水仕事である。
山の木々が葉を落とす頃、寒さに備えて養分を蓄えた葛の冬根を掘り出し、寒さを待ってこれを砕き、水に晒して、でんぷんを取り出す。葛が次の春に芽を出し、蔓をのばすために根に蓄えていた養分をいただいてしまうのだ。
古くから、吉野に産するものは全国随一と謳われ、「吉野」といえば、葛粉のこと。なぜ吉野なのか。
寒中に行なう水晒しの作業を〝寒晒し〟という。吉野の作業場に立つと、足元からちりちりと刺すような冷えがはい上がってくる。一年でもっとも寒い時季に、火の気を遠ざけた作業場で、ひたすら水晒しをくり返す。良質できめ細かいでんぷんを得るには、水は清く冷たいほどいい。
吉野の冬の厳しい冷え込みと、寒(かん)の水、清めの儀式さながらの手作業が、純白のこよなき葛粉を生み出す。
◎お問い合わせ:吉野葛本舗黒川本家
◎住所:奈良県宇陀市大宇陀区上新1921
◎TEL:0745-83-0025
Text:Yukie Mutsuda Photo:Hiroshi Ohashi
校倉造の干場で50日間。冬のからっ風に吹かれて、ゆっくりじんわり乾いていく。完成間近の葛粉。
葛粉の原料になる、マメ科のつる性多年草、葛の根。でんぷんをたっぷり蓄えて太った冬根を使う。採取時季は晩秋。葉が落ちてから、木の芽をふく前まで。