日本の伝統食品
壺酢
(徳島県・姶良)
南国の太陽を浴びて、壺中に野太い黒酢が育まれる
三方を丘陵に囲まれ、錦江湾に面した鹿児島県姶良(あいら)郡福山町は、冬もめったに霜が降りないという温暖の地。
酢醸造に適した暖かさと清い水に恵まれて、およそ200年前からこの地に壺酢造りが続いてきた。
壺の中で育まれる酢は、深い琥珀色。柔らかな酸味と独特の香りを持つ米酢。昔造りの黒酢である。
仕込みは春と秋。4月の声を聞くと、春仕込みがはじまる。
米と米麹、水を壺に仕込んだら、後は微生物たちの出番だ。デンプンを糖に変え、タンパク質を分解して旨みを作り出し、アルコール発酵、酢酸発酵、熟成と進んで、自(おの)ずと酢になる。
これだけの工程を、7~10ヵ月間かかって一つの壺でやってしまう。
微生物たちが機嫌よく働くよう、酢壺は日当たりのいい”壺畑”に、整然と並んでいた。
福山の黒酢は、露地栽培ならぬ、露地醸造なのである。
◎お問い合わせ:坂元醸造
◎住所:鹿児島県姶良郡福山町福山
◎TEL:099-258-1777
Text:Yukie Mutsuda Photo:Hiroshi Ohashi
仕込みから2ヵ月後。液面を覆っていた「振り麹」が、沈みはじめる。ほのかに酢の香りがし、順調に酢酸発酵がはじまっているのがわかる。
濃褐色のアマン壺。黒い色は、日光をよく吸収して発酵に必要な温度を確保するため。古壺にはいい菌が棲みついており、酢造りを応援するという。