日本の伝統食品
温海カブ
(山形県・温海)
畑の炎と灰が育む赤カブは、つのる寒さと秋の陽光で太る
いまどき、こんなに野趣に富んだカブラはちょっとない。
つやつやの深紅の肌に、土から吸い上げた生気を包んではち切れんばかり。かじってみると、皮は薄く柔らかく、思いのほか甘くみずみずしい。
甘酢に漬け込んでも、素材の力強さが、甘酢っぱさをくぐり抜けてしかと伝わってくる。
そんな赤カブが、焼畑でできるという。焼畑といえば、稲作伝播以前から山間に続いて来た古代農法。畑という字に火があるのは、その名残りだ。
盛夏に山の斜面を焼き払い、灰の上に種をばらまく。すると晩秋には、それは見事なルビー色の玉になる。
その間に人がすることは、茂りすぎたカブラの葉を、間引いて食べるくらいのもの。耕しもせず、肥料もやらない。土地を農薬で傷めることもない。
収穫後4~5年間で山はもとどおり。青草が茂り、枯れ重なって土を養い、山の恵みを育む。素材こそ宝。
◎お問い合わせ:一霞温海かぶ生産組合
◎住所:山形県鶴岡市温海町一霞
◎TEL:0235-43-3075
Text:Yukie Mutsuda Photo:Hiroshi Ohashi
8月のお盆の頃に種をまいておよそ60日間後。石ころだらけの山の斜面が、青々としたカブラ畑になる。山が紅葉する頃、赤カブを収穫する。
焼畑のひと月前に、山の雑草を刈って下準備。晴れた日に風向きを読んで、枯れ草に火を放つ。一反300坪が、ものの30分間できれいに燃え尽きる。