日本の伝統食品
海老の焼き干し
(熊本県・芦北町)
風と潮の流れにまかせて網を曳く、帆かけ船で獲る不知火海の祝い肴
古来エビは長寿慶事の象徴とされ、祝いの席になくてはならない縁起物。
鹿児島地方では、家々の門に藁で編んだ海老の焼き干しを飾り、海老だしの雑煮で正月を祝う。
祝い肴になるのはもちろん地場の天然物、大ぶりのクルマエビの一種アシアカエビ。ビンビン跳ねているやつを串に刺し、松の薪火で焼き上げて自然乾燥した豪勢な干物である。
不知火(しらぬい)海のエビ漁は、魚群探知機も動力も使わない。風まかせ潮まかせの帆掛け船の打瀬網漁(うたせあみ)。
「風のない日は漁も休み。風の仕事ですたいね」
不知火海に面した熊本・芦北町の漁師たちは昔どおり、風向きや潮流を読んで、帆の数と高さを調節しながら網を曳く。
大海原をゆるゆる流れていく帆船ののんびりペースが、20種類ものエビを育む豊かな不知火海を守ってきたのかもしれない。
◎お問い合わせ:みやもと海産物
◎住所:熊本県葦北郡芦北町鶴木山45
◎TEL:0966-82-2320
Text:Yukie Mutsuda Photo:Hiroshi Ohashi
松の薪の火の周りに、竹串に刺したアシアカエビを立てて、遠火の強火であぶる。曲がらないようぱりっと美しく仕上げるのは熟練の技。
不知火海の伝統漁法、打瀬網漁。打瀬船(うたせぶね)は全長15m、檜の主帆柱の高さ13m、9枚の帆を持つ優雅な帆船。帆は漁師の手縫いだ。