日本の伝統食品
コノコ
(石川県・穴水)
さっと炙ったほんの一片で、口の中が海になる
潤いのある朱色、ぴしっと角の立った三角。その姿形に、さぞかしやと思わせる風格がある。
さっと炙って、隅っこをちょっぴり裂いていただく。えもいわれぬ香りと、野生の甘みがむくむくと広がって、たちまち口の中が海になる。
コノワタ、カラスミ、ウニは古くから並び称される佳肴だが、これらをさらに究めるとコノコに行き着く。
珍味中の珍味として、貴族や茶人に愛されてきた、コノコとは何ものか。食べてみても、ちょっと見当がつかない。古く海鼠のことを「コ」と呼んだことから、海鼠の子。へんな生き物で、口のほうから産卵するので「クチコ」。三角に干したその形が、三味線のバチのようだというので「バチコ」ともいう。
塩一つ加えず、寒風と冬の陽光だけで濃密なうまみを醸し出す。藩政時代から能登七尾に伝わるその製法は、極めてシンプル。そして奥深い。
◎お問い合わせ:森川仁右衛門商店
◎住所:石川県鳳珠郡穴水町中居南2字112
◎TEL:0768-56-1013
Text:Yukie Mutsuda Photo:Hiroshi Ohashi
紐に掛けたばかりのコノコは、色鮮やかなオレンジ色。滴り落ちるしずくは、旨みたっぷり。先端は味わいも濃密。
ナマコは半分に切っても腸を取っても死なず、放っておけば再生するという不思議な棘皮動物。腹の中にはコノワタ、コノコと垂涎のお宝が詰まっている。