日本の伝統食品
イラブー
(沖縄県・石垣島)
「いのちのくすり」と珍重される、琉球王朝伝来の黒い燻製
沖縄・那覇の公設市場の狭い店先で、奇怪なものを見つけた。黒く干涸びたステッキ状のものや、巨大な蚊取り線香風渦巻。てらてらと黒光りする肌に、びっしりと鱗模様がついているのを見て、さすがにぎゃっと飛び退いた。
イラブーは一般にエラブウナギと呼ばれているが、正式名はエラブウミヘビ。噂では、ハブの数倍の猛毒を持つという、ウミヘビの燻製である。
とても食欲の湧く姿とはいえないが、市場のおばあの話では、古くから伝わるヌチグスイ(いのちのくすり)だという。
薬食同源の国、琉球王朝に数多あるクスイムン(滋養強壮食)の中でも、イラブーは別格。王朝の宮廷料理にしか使えない食材で、庶民は獲ることも、食べることも禁じられていた。
王朝は明治維新であとかたもなく消えたが、ヌチグスイの伝統食文化は、庶民の手のなかで、脈々と息づいている。食の記憶は、やはりしぶとい。
◎お問い合わせ:金城正昭
◎住所:沖縄県石垣市新川442-3
◎TEL:090-3797-9820
Text:Yukie Mutsuda Photo:Hiroshi Ohashi
ゆでたイラブーを、タコ糸で伸ばすようにして燻煙室に掛ける。ステッキのようにかちかちになるまで、半月から20日間ほど燻煙乾燥する。
空も海も珊瑚礁の白い砂も、あかね色に染めて、夕闇が降りてくる。石垣島西海岸の夕映え。旧暦6月中頃、イラブーが産卵にやってくる。