日本の伝統食品
すんき
(長野県・開田)
初冬に収穫する地場のカブ菜を、塩無しで漬ける常識破りの越冬食
信州・木曽御岳山麓の開田(かいだ)高原に、代々母さんたちが作る風変わりなカブ漬けがある。
「酢茎」と書いて、すんき。読んで字のごとくほのかに酸っぱくて、しゃきしゃきの歯応えが持ち味だ。そのままでよし、炒め煮によし、味噌仕立てのすんき汁にもする。
カブの実は使わない。硬い菜っ葉の漬物で、塩もいっさい使わない。
手塩の味という言葉があるように、塩は漬物のもうひとつの主役。水分を抜き、腐敗を防いで長期保存を可能にし、塩梅の妙が味を決める。
塩無しで、漬物が首尾よくできるものだろうか。しかも冬を越して、春まで食べるという。
元禄年間に滋賀・大津の義仲寺(ぎちゅうじ)で催された芭蕉一門の句会で、門下の凡兆(ぼんちょう)は、「木曽の酢茎に春もくれつつ」と詠んでいる。
常識破りの無塩の漬物は、江戸時代の俳人も一目置く存在だったらしい。
◎お問い合わせ:開田高原振興公社
◎住所:長野県木曽郡木曽町開田高原西野2766
◎TEL:0264-44-2251
Text:Yukie Mutsuda Photo:Hiroshi Ohashi
漬けてほどなく、漬け汁が鮮やかな紅色に変わる。常に漬け汁がかぶるようにして、空気を遮断。雑菌の侵入を防ぐのが長期保存のこつ。
木曽の御岳山の東麓に広がる開田高原。標高1300mの高地にあり、冬の4ヵ月間は氷点下の寒さが続く。その風土が無塩の漬物を育んだ。