日本の伝統食品
魚醤塩辛
(山形県・飛島)
初夏に獲れるイカワタの塩漬けが、3年目の秋に琥珀色の魚醤になる
山形県飛島(とびしま)の塩辛には、少しばかり手を焼く。
糸のような細切りイカが、容器代わりのビール瓶のタレの中でびしゃびしゃ泳いでいる。口が狭くて箸も届かない。傾ければ、タレばかり流れ出てしまう。どうにも食べにくいのだ。
「先の曲がった針金で釣るんだよ」
酒田や鶴岡近在の年配の方々に訊ねれば、たいてい知っている。飛島の塩辛は釣って食べるのである。
豊饒の海を思い起こさせる芳香、塩気とそこはかとない甘みがとろりとからみ合う深い味わいは、ひとえにタレのできにかかっている。つまり本命は独特の濃厚な旨みを持つ魚醤。
大根おろしにかけたり、煮野菜の味つけや鍋ものに、これひとつあれば野菜も豆腐も、たちどころに海の香りのするおかずに変身する。
新鮮な夏イカのワタに塩をして、3年目の秋にやっとものになる。思えばとてつもない食べものである。
◎お問い合わせ:山形県漁業協同組合さかた総合市場
◎住所:山形県酒田市船場町2-2-1
◎TEL:0234-24-5617
Text:Yukie Mutsuda Photo:Hiroshi Ohashi
とびきり新鮮な初夏のイカのワタを塩で締め、秋に塩水と混ぜて仕込む。3回夏を越すと、濃厚な旨みの完熟魚醤に仕上がる。
夕方4時に出航したイカ釣り船が、午前3時頃に港へ戻ってくる。