日本の伝統食品
烏梅
(奈良県・月ヶ瀬)
古代に妙薬として伝わった“黒い梅干し”が、薬食同源の飲みものに
黒い梅干しをご存知だろうか。
しわくちゃに干からびた一粒を、手に取って耳元で振ると、かさこそと種の転がる音がする。これが梅の実だとは、ちょっと見破れない。
半夏生(はんげしょう)(7月2日前後)の頃、完熟した梅の実が自然にぽとんと落ちる。
これを拾い集めて、地中の窯で燻し焼き、20日間天日で干し上げると、「烏梅(うばい)」ができ上がる。
姿に似合わないふくよかな香気は、なるほど梅である。
万葉の時代には、烏梅と書いて〝ウメ〟と読んでいる。〝烏〟は黒色を表し、〝梅〟は中国語式に読んで〝メイ〟。
黒い梅干しは古代、漢方の妙薬として中国から伝わったという。漢方では今も健胃整腸、下痢止め、咳を鎮め、喉の渇きを癒し、鎮痛にも用いられる。
少し煮出して、好みで砂糖を加えて飲むと、酸っぱくてあと口さっぱり。夏バテによく、解毒作用もあって、二日酔いにも重宝な飲みものになる。
◎お問い合わせ:梅古庵
◎住所:奈良市月ヶ瀬尾山
◎TEL:0743-92-0560
Text:Yukie Mutsuda Photo:Hiroshi Ohashi
煤をまぶした梅の実を、「梅すだれ」に重ならないように並べる。藁むしろをかぶせ、土中の窯で一昼夜燻し焼きした黒梅。
7月の初め頃に自然落下する、完熟の酸味の強い白梅の実が烏梅になる。短期間に集中するので、村の人の手を借りて拾い集める。室町時代から烏梅作りの歴史が続く、奈良市・月ヶ瀬の梅園で。