日本の伝統食品
鮒ずし
(滋賀県・大津)
1年かかって自然乳酸発酵し熟成する、1000年来の魚の漬物。
臭い! とそっぽを向く人も少なくないが、愛する者にとっては、このにおいがたまらない。
におうのは、鮒ずし。春先に琵琶湖で獲れる子持ちニゴロブナを、ご飯に漬け込み熟成させたなれずしの一種だ。ご飯をこそげ落として、魚だけを賞味する最古のすしで、日本人との付合いは悠に千年を越す。古代貴族たちも愛でた、すしのご先祖さんである。
すしといっても、酢は使わない。原料はフナと塩とご飯だけ。天然乳酸菌たちがじんわり醸す、奥深くまろやかな酸味が持ち味だ。
内臓を除いて塩漬けしたフナを、夏が来る前にご飯に本漬して、待つこと約1年。ご飯はとろりとしたヨーグルト風になり、フナは骨までやわらかく、尾ひれのずみずみまで熟して、えもいわれぬ醍醐の味に仕上がる。
万人受けしない鮒ずしが、千年余も生き続けてきたのは、くせになるほど臭いおかげだったのかもしれない。
◎お問い合わせ:中島七郎兵衛商店
◎住所:滋賀県大津市本堅田1-12-11
◎TEL:0775-72-0124
Text:Yukie Mutsuda Photo:Hiroshi Ohashi
塩漬けしたフナをきれいに洗い、たっぷりのご飯に包んで漬け込む。これから約1年間、重石の下で熟成させる。
伝家のすし桶と重石は、今も現役。夏の発酵は、100kg近い重石を落としてしまうほど強力。毎日2個の重石の位置を微妙にずらして、バランスをとる。