日本の伝統食品
若鮎の木の芽炊き
(滋賀県・高島)
新緑の候に獲れる可憐なアユの、香りすずやかなおばんざい
口に入れると、あっけなく崩れてしまう。こんなにも可憐なアユの佃煮を他に知らない。かすかな香気の初々しさ。はらわたのほろ苦さ。青ザンショウがひりりと涼しい。
琵琶湖・湖北地方では、季節ごとにアユの呼び名が変わるそうだ。
寒中の透き通る稚魚は、氷魚(ひうお)。桜の花の散る頃に白肌になる6~7㎝ほどの桜魚(さくらうお)。山々の新緑の候は、銀色に光る若鮎。サンショウが青い実を結ぶ頃、そろそろ湖のアユもお年頃。
海を知らない琵琶湖のアユは、成魚でも10㎝ほどにしかならない。まるでミニチュアのような若鮎と実ザンショウ、そして木の芽。湖山の旬を愉(たの)しむ木の芽炊きは、もともと湖北に伝わる家庭料理。水飴を使わず、淡口醤油であっさり煮上げる。
甘すぎず、硬からず、べたつかず、後味の余韻よろしく、しかも見目麗しい。湖底の湧き水に恵まれた、水清い湖北ならではの初夏の粋。
これが喜ばずにいられようか。
◎お問い合わせ:魚治
◎住所:滋賀県高島市マキノ町海津2304
◎TEL:0740-28-1011
Text:Yukie Mutsuda Photo:Hiroshi Ohashi
体長6~7㎝の若アユと実ザンショウ。相性のよい素材を合わせた木の芽炊き。飴炊きと違って柔らかくふっくら炊き上げるので、若鮎の持ち味が生きる。
桜吹雪も終わる頃からが若鮎漁のシーズン。古くからの宿場町、海津(かいづ)の浜では、浅瀬を歩いて手網で小アユをとる伝統の「おいさで漁」が盛んだ。