日本の伝統食品
あご野焼き
(島根県・松江)
夏のトビウオを石臼ですりつぶして香ばしく焼き上げた、時季ものの蒲鉾
丸々肥った子持ちあごが、魚屋の店先に並ぶと、「夏を肌で感じますわ」と松江の人はいう。
青葉の頃に山陰沖へやってくるトビウオを、地元では〝あご〟と呼ぶ。
干してだし魚にもするが、産卵をひかえたこの時季のあごは、淡泊ながら刺身によし、焼いてよし、すり身団子にして吸いものに落としてもおいしい。
地場あごが揚がるこの時季が「野焼き」の最盛期。活きのいいあごを三枚におろし、石臼ですり身にして串に巻きつけ、炭火でじっくり焼き上げる。
「暑くてたまらんから昔は外であぶった。で、野焼きっていうらしいです」
宍道湖のほとりにある蒲鉾屋のあるじにそううかがった。
全国に蒲鉾屋は数あるが、今どき、生魚をおろして作る一徹者は数えるほどしかいないようだ。
添加物を使わず、土地に伝わる酒で新鮮な地場魚の旨みを引き出す。
旬ならではの蒲鉾である。
◎お問い合わせ:青山蒲鉾店
◎住所:島根県松江市中原町88
◎TEL:0852-21-2675
Text:Yukie Mutsuda Photo:Hiroshi Ohashi
長さ42cmのすり身を、炭火の上で回転させながらじっくりあぶる。芯まで火が通るよう「突き立て」という道具で叩きながら焼くと皮も破れずこんがり仕上がる。
山陰に夏の訪れを告げるあご(トビウオ)。近在の漁港から直に入ってくるアゴは新鮮そのもの。野焼きには味のいい小ぶりの“ごめ”を使う。