日本の伝統食品
からすみ
(長崎県・野母崎)
北風を頼りに仕上げる、口にとろける一瞬の至福
秋深まる頃、長崎・野母崎に待望のボラの群れがやってくる。そのほどよく熟した真子(まこ)(卵巣)こそ、最高峰の干もの〝からすみ〟のもと。
野母のからすみといえば、江戸時代には越前のウニ、三河の〝このわた〟とともに天下の三珍味と謳われた、今風に言えば高嶺のブランドものである。
茶人にも好まれ、初釜など祝いの茶事に珍重されてきた。
打てば音がしそうに、北風でしっかり干し上げてあるが、堅からず。微小な卵の密な弾力がむっちりとからみつく。濃厚な海のこくがとろける。
それにしてもこの妙な名前の食べものが、いつどこからやってきたものか。
文禄元年(1592年)には、朝鮮出兵のために肥前に下った豊臣秀吉に、長崎のキリシタンがからすみを献上したという記録があると聞く。
スペインやイタリアの南部あたりでも魚卵の干ものが食べられているところをみると、どうやら南蛮船が運んできたらしい。
◎お問い合わせ:小川水産
◎住所:長崎県長崎市野母崎樺島町393
◎TEL:0958-93-0507
Text:Yukie Mutsuda Photo:Hiroshi Ohashi
10月に獲れるボラの見事な真子(卵巣)をすぐさま取り出して塩漬け。このまま、北風と天気が安定する11月末頃まで待つ。
野母崎(のもざき)の入江で獲れたばかりのボラが、港に揚がる。このあたりを通りかかる頃の真子の熟度が、からすみにするには最適なのだという。