日本の伝統食品
なしふぐ
(長崎県・島原)
古来、命がけで愛されてきた「鉄砲」と呼ばれる愛嬌者
くりくりした目、ずんぐりむっくりの姿、魚のくせに泳ぎはのろく、怒るとふくれっ面をする。
なんとも愛嬌者だが、ご存知のように、テトロドトキシンという毒をもつ危ない魚である。それも青酸カリの数百倍という猛毒。毒性の強いものなら1尾の雌フグの臓物で、大人30人を死なせてしまうといわれる。そんな魚には近づかぬに限るが、そうもいかないほど旨いのが、フグの罪なところ。
〈あらなんともなや 昨日は過ぎて ふくと汁〉 芭蕉
フグを食べたはいいけれど、不安がよぎる。翌朝、あら、大丈夫と胸をなで下ろす。俳聖の一句に、当時のふぐ食いの心境がにじむ。
いかにその毒を避けて、美味を手に入れるか。ふぐ食いの歴史は、果敢な闘いの連続でもあった。
古来「鉄砲」の異名を持つ危ないやつも、長崎県島原では、家庭の食卓にのぼるおかず魚である。
◎お問い合わせ:有家町漁業協同組合
◎住所:長崎県南島原市有家町石田8
◎TEL:0957-82-2806
Text:Mutsuda Yukie Photo:Hiroshi Ohashi
トラフグに匹敵するおいしさと言われるナシフグ。島原では「がんば」(棺桶)の異名を持つ。小ぶりで愛嬌のある顔をしているが、あなどれない毒をもっている。
晩秋から冬にかけて、ナシフグが旨くなる。漁が許可されているのは、全国でも島原半島西岸の橘(たちばな)湾、長崎県・熊本県漁区の有明海、それに瀬戸内海の一部の地域に限られる。