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日本の伝統食品

鮑の腸の塩辛
(石川県・輪島)

熟成の奥深い味わいは、短い夏の海の置き土産

 7月に入ると、能登の海の鮑漁が解禁になる。海女たちが獲る夏の鮑は、こよなき海の贈りもの。
 秋からの産卵に備えて、鮑の身も腸(わた)もふっくら太って充実する。
 その身もさることながら、腸の旨さにはうなってしまう。
 海の人はこの鮑の腸を、「つの」と呼ぶ。勾玉(まがたま)にも似た三角のとんがった形は、なるほど角である。腸に呼び名がついているのは、待たれている証しだ。
 生きた鮑の腸に塩をして、2ヵ月ほどねかせる。夏を越し、秋にはそろそろ熟れて、食べ頃になる。
 舌にまとわりつく濃厚さは、さながら海のはらわた。暑い夏の間に酵素の働きで、独特の匂いと味わいが醸し出される。この深さ、複雑さは、生のものにはありえない。
 それも9月いっぱい。産卵を間近に控えて鮮やかな緑色になったら、食べないという。鮑の腸の塩辛は、短い夏の置き土産である。

◎お問い合わせ:大積海産
◎住所:石川県輪島市鳳至町鳳至丁121-20
◎TEL:0768-22-1205

Text:Yukie Mutsuda Photo:Hiroshi Ohashi

「つの」と呼ばれる鮑の腸。これだけ集まると、ぎょっとする壮観だ。7月に塩漬けして、夏を過ぎ、秋口に漬け汁が濃い褐色になれば食べ頃だ。

能登の冷たい海は、古来、鮑の宝庫。水深15~20mの岩場にしかいない大きな鮑は、ベテラン海女にしか獲ることができないという。

 

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