日本の伝統食品
松皮餅
(秋田県・由利本荘市)
松の皮を餅につき込んで食べてしまう。
鳥海山北麓に伝わる旧節句の祝餅
どこにでもありそうに見えて、これほど独創的な食べものもちょっとめずらしい。餅をこしらえるために、樹齢40〜50年の赤松の木を伐り倒し、その木の皮板を、大福餅にして食べてしまうのである。
もちろんあのごわごわの皮のままでは、歯が立たない。半日ぐらぐら煮て、木槌で辛抱強く叩きつぶし、繊維にして餅につき込む。つきたてに餡を包んで丸めてでき上がる。
とんでもない手間をかけて、皮板を食べようなどと誰が思いついたものか。鳥海山北麓の矢島町や鳥海町では、近年まで旧暦3月の節句に、松皮餅をつく習わしがあった。
赤い松皮餅、緑色のよもぎ餅、白い餅を菱形に切り重ね、菱餅にしてひな壇に供えて祝ったという。
古来、常磐の松は慶事の象徴。赤は、厄を除けるとされる祝儀の色。松の木から引き出す赤色でそめた餅は、雪国のめでたいづくしである。
◎お問い合わせ:佐藤和子(問合せはできる限り葉書で)
◎住所:秋田県由利本荘市矢島町川辺字小坂38
◎TEL:0184-56-2895
Text:Yukie Mutsuda Photo:Hiroshi Ohashi
薪の強火で煮た松皮の板。皮も煮汁も真っ黒に見えるが、水で薄めるときれいな葡萄色になる。
古くから祝い事に喜ばれてきた赤い松皮餅の大福。人工着色料の出現で一時途絶えていたが、矢島町の農家のお母さんたちの手で息を吹き返した。