日本の伝統食品
鰯の焼き干し
(青森県・九艘泊)
秋風と太陽が、透き通るイワシの滋味を丸ごと干し上げる
脂ののった春のイワシは、焼き干しには不向きだという。
下北半島と津軽半島に囲まれる陸奥湾で秋イワシが獲れる9月から10月半ばまでが、下北半島九艘泊(きゅうそうはく)の焼き干し作りの最盛期だ。この頃には、5月に湾内で生まれた子イワシも、10cmから20cmのほどよい大きさに育つ。
夜明け前に目の前の海で水揚げしたイワシの頭と内臓を取り除き、日の出とともに天日に半日干す。この生干しを竹串に刺して、炭火でこんがり焼く。焼く前に生干しにするのは、生のまま焼くと、銀色の皮が剥がれてしまうからだという。
香ばしい炭火焼きは、一つつまみ食いすると止まらなくなる。水煮しないから、旨みが目減りすることなく、しっぽの先までギュッと詰まっている。
かちんと干してしまうのがもったいないほどのイワシを、吹き渡る北国の秋の風と日の光が、極上のだしの素に仕上げてくれる。
◎お問い合わせ:櫛引理三郎
◎住所:青森県むつ市脇野沢九艘泊
◎TEL:0175-44-3078
Text:Yukie Mutsuda Photo:Hiroshi Ohashi
銀色の焼き干しいかだ。20匹ずつ竹串に刺し、炭火でこんがり焼いたカタクチイワシを、串ごと天日と海風でかっちり干し上げてある。
浜の干し場いっぱいに、下ごしらえしたイワシが並ぶ。干し作業が終わる頃、朝日が射してくる。暗いうちから作業をはじめ、太陽を存分に活用する。