日本の伝統食品
棒鱈
(北海道・稚内)
最北端の地に吹く真冬の烈風が、豪快な干物に仕立て上げる
茫々と広がる海を背に、びっしりと真ダラが吊るされている。北海道・稚内の厳冬期の風物詩、〝鱈すだれ〟だ。
稚内港に水揚げされる真ダラの頭と骨を取り除き、3ヵ月間氷点下の烈風にさらすと、からからに乾いて棒鱈になる。痩せても枯れても、重さ1㎏、長さ1mもある豪快な干物だ。
「天気がよくて強い空っ風が吹く土地でないと、いい棒鱈にならないんです。根室や釧路でもタラが揚がるけど、霧が多くてダメなんだわ」
棒鱈作りの秋元正智さんはいう。
それにしても、なんという固さだろう。魚の干物で「釘が打てる」。
そんなトンカチみたいなものを、寒(かん)の水で戻し、気長にことこと30時間もかけて炊くと、口の中でほろほろほどけるようになる。
棒鱈は今も、京都や北陸の正月や祝い事には、なくてはならないご馳走だ。しかし、ここまで技と根気を要求する食べものも、そうそうない。
◎お問い合わせ:うろこ市秋元水産
◎住所:北海道稚内市恵比須1-4-28
◎TEL:0162-23-7820
Text:Yukie Mutsuda Photo:Hiroshi Ohashi
冬は強い季節風が吹き、海も荒れる。海辺の干場に、びっしりと吊された真ダラ。3ヵ月間、烈風にさらし干す。
厳冬期の早朝の稚内港。朝日が昇り、凍っていた海が緩みはじめる頃、タラ釣りの延縄漁船が続々と国内最北の港に戻ってくる。