日本の伝統食品
干し海鼠
(石川県・七尾)
1.5㎏の大ナマコがたった30gに。
黒くトゲだらけに乾いた不老食
干からびたナマコときたら、不細工不気味で、お世辞にも褒めようがない。
どうみても食欲のわかないやつを、古代貴族たちはいたく愛でたものらしい。全国から納めさせて、客の饗応や神の供物、贈答品に珍重している。
古来中国では、〝海の朝鮮ニンジン〟といわれる滋養強壮食。干しアワビと並ぶ高級食材だ。江戸時代は長崎貿易の輸出品として、幕府のドル箱だった。
ナマコの名産地、石川・能登の七尾(ななお)湾周辺では、干したナマコを「きんこ」と呼ぶ。金に値するから「金海鼠」だろうともいわれている。
「高価なもんだったで。もったいのうて、食べられんかった」
きんこ屋の口にも入らないもので、家庭料理もほとんど伝わっていない。そのきんこが、最近なぜか、珍味コノワタやコノコをしのぐ人気だそうだ。黒くてトゲだらけの奇怪なやつのどこかに、有無を言わせぬ妙味が秘められているのかもしれない。
◎お問い合わせ:太市水産
◎住所:石川県七尾市石崎町イ28
◎TEL:0767-62-2641
Text:Yukie Mutsuda Photo:Hiroshi Ohashi
江戸幕府の指導は、「棘立(いらだ)ちよろしく」干し上げるようにというものだった。丸くころんと仕上がった上等なきんこは、触ると痛いほどのトゲ。
海底の餌を食べないよう底に網が張ってある。獲ったナマコは、ここに2~3日間入れておき、泥を吐かせてから加工する。