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鳥貴族 大倉忠司社長に聞く 赤字転落の危機から会社を救ったアメーバ経営の真髄

2017年から18年にかけて業績不振に陥った焼とりチェーン「鳥貴族」を再浮上させる原動力となったのがアメーバ経営と呼ばれる経営管理手法だ。しかし、これを採り入れたからといって魔法のように業績が回復するわけではない。その裏側には鳥貴族の復活だけではなく、店で働くスタッフの幸せ、さらには外食業界の輝く未来を強く願う大倉忠司社長の強い信念があった。それなくしてアメーバ経営の目的のひとつである全員参加経営の実現、筋肉質の経営体制を整えることはできなかっただろう。本稿ではアメーバ経営の中身とともに、大倉社長がそれをどう現場に浸透させていったのかをインタビューとルポで明らかにする。

──㈱鳥貴族ホールディングスの2022年7月期決算は2期連続で営業利益が赤字でしたが、マイナス幅を大幅に縮小したことで当期純利益は3期ぶりに黒字に転じました。その原動力になったのがアメーバ経営だと大倉社長はおっしゃってましたよね。

 ええ。アメーバ経営をしていなければ、当社の財務はもっと傷んでいたでしょうね。21年11月と12月は単月で黒字化できましたが、以前のコスト構造であれば間違いなく赤字でした。

──もしコロナ禍前の売上げを維持できていれば、収益をどのくらい見込めましたか。

 営業利益率10%をめざしていますが、コロナ禍がなければ目標達成まであとわずかというところまできていました。

──チェーン経営で営業利益率が10%を超えることは稀ですよね。10%という数値は高い目標ですが、それをめざすためにアメーバ経営が必要だったわけですか。

 現場の採算管理が非常に弱かったですからね。『鳥貴族』1000店を達成すべく16年から出店を加速した結果、自社競合を招いて既存店客数が落ち込み、収益が大幅に悪化してしまった。業績回復に奔走する中で、当時の社外取締役からアメーバ経営導入の提案を受けました。それで19年2月に導入したわけですが、実は独立前から稲盛和夫さんの経営論を勉強はしていて、鳥貴族の創業時から自分なりの解釈でアメーバ経営を実践していたんです。

──どう実践されていたわけですか。

 現金出納帳に日々の売上げやアルバイトの人件費、消耗品代などを記録していましたね。水道光熱費は過去の実績を日割りすることで採算を日次で管理し、コスト意識を高めていましたが、店数が10店を超え、出店が加速したことで運用を諦めてしまったんです。

──効果は体験済みだった、と。

 ええ。現在の規模であれば、直営全店で毎月1万円の経費を削減するだけで年間4000万円を超える利益を上乗せできますから。実際に細かな取組みの積み重ねで、備品コストは全社で年間1億円を削減できた。コロナ禍前から取り組んでおいて本当によかった。

──採算管理の手法はすでに確立されているわけですが、なぜアメーバ経営ではそれがうまくいくのでしょうか。

 多くの外食店の店長は採算管理をしているといっても、実際には現場の原価と人件費しか意識していないんじゃないかと思います。私が現場に入っていた時は、水道の水が流しっぱなしだとすぐに止めていました。経営者にとってはお金が流れているように見えるんですね。でも、雇われ店長はなかなかそういう感覚は持てないわけです。アメーバ経営は各店の勘定科目をすべてガラス張りにしますから、水道代ひとつとっても無駄があれば数字で明らかになる。さらに毎月エリアマネジャーが旗振り役となって、管轄エリアの店長が10~12人ほど集まって会議をします。各店の実績や成果のあった取組みを共有することが目的ですが、他店と比較されますから数字に対する意識が自ずと高まるわけです。

不採算店の撤退やアメーバ経営の導入などの取組みが奏功。「鳥貴族」チェーンは2020年7月期に大幅に業績回復を果たした。

理念と採算管理は車の両輪

──コストを意識しすぎると間違った利益の求めかたをしてしまう恐れもあるのでは。

 おっしゃる通りです。だからこそ、アメーバ経営は理念とセットで運用しなければなりません。あくまでも目的は理念達成。そのための利益の創出なんだと伝えています。当社には『すべてのステークホルダーを幸せにする』という価値観があるわけですが、そこにはもちろんスタッフも含まれます。ですから、アメーバ経営を採り入れる時に社員がそれで幸せになれるのかをまず考えました。結論からいうと、その判断は間違っていなかったですね。

──それはどんな面でですか。

 採算管理のノウハウは外食業だけでなく、あらゆる業界で求められます。転職しても独立しても、これを身につけていたら絶対プラスになる。だから導入時の勉強会では将来の自分のためにアメーバ経営を実践してほしい。結果として、会社の理念に紐づいてくれればいい』と言い続けました。この決断に賛同し、現場が主体性をもって取り組んでくれたからこそ、現場の収益体質を変えられたと思っています。

──『自分のために』というのがポイントだったわけですね。

 ええ。アメーバ経営の運用コンサルティングを手がける京セラコミュニケーションシステム㈱さんには運用前になぜ導入したいのか、利益創出の目的はなんなのかを繰り返し問いかけられました。トップの考えをクリアにし、それをまずは経営陣と部長に落とし込み、次に統括マネジャーと上位レイヤーから順にアメーバ経営の理解を深めました。運用の秘訣は経営理念をどれだけ社内に浸透できるか。つまり、トップの本気度が試されるわけです。

──理念達成と採算管理を紐づけることで社員の経営参画意識を育めるということですが、雇用者と被雇用者の意識の乖離は非常に大きいのではないですか。

 経営者と同じ思考ができるようになるかというと、それは難しいでしょうね。ただ、経営者の考えかたに近づくことは可能だと思います。繰り返しになりますが、各店の業績を見える化し、まずは数字に対する意識を高める。採算管理を徹底すれば、会社の利益に反映されます。結果としてコロナ禍でも社員の給与を満額支給し、さらに22年8月にはおよそ8000~1万円の賃金ベースアップができましたから。

──成果を目に見える形で社員に還元することで、店舗運営を自分ごととして捉えるようになれる、と。

 おっしゃる通りです。社員独立で直営店をスタッフに譲渡すると、一気に採算がよくなる。なぜかというと、経営を自分ごとで考えるからなんですね。

課題は生産性向上

──ただ、コスト対策だけではいつか限界がくるのではありませんか。

 採算管理には売上げ最大、経費最小、時間最短という3つの指標があり、コストカットはあくまでも収益性改善のひとつの手段にすぎません。たとえば再来店を促す商品を開発してほしい、スケールメリットを活かせる購買方法を模索してほしいなど、現場の店長たちからも売上げ最大、経費最小につながるような改善提案がどんどんあがってくることを期待しています。

──全員参加経営を仕組みではなく、企業風土にしなければならないわけですね。

 大事なのはそこだと思います。アメーバ経営を仕組みとして運用しているようでは大きな成果は得られないんじゃないでしょうか。

──経営者思想が文化として根づいていけば、大倉社長が望まれている起業家輩出の後押しにもなるのではありませんか。

 ええ。アメーバ経営で店長が外食経営をバーチャルに体験し、それによって起業家精神が育まれることで社員独立が増えていってほしいですね。

──外食ビジネスのいいところは公平性ですよね。商売の勝ち負けはお客さまに支持されているかどうかのみで決まります。ビジネスアイデアと情熱、社会貢献の強い気持ちがあれば、経歴に左右されずに成功を収めることができるかもしれない。夢のある業界ですよね。

 しかも参入障壁が低く、誰もがビッグビジネスに挑めるチャンスもある。海外市場を含めれば、将来性は有望だといえます。だからこそ、就職人気企業ランキングに外食企業の名が連なるようにしたいですね。そこがいちばんのバロメータですから。これを実現するためにはまず給与を含めた待遇や労働環境を改善していかないといけないでしょうね。そのためには二軸の取組みが必要で、ひとつはフードテックやDXなどの活用による生産性向上。もうひとつが価格改定です。やはり、日本の外食は安すぎる。お客さまに納得していただける形で価値を価格に置き換えていく経営努力が必要です。

──米国の外食業は生産性が高いといわれますが、そもそも価格が高い。

 その通りですね。鳥貴族の米国進出を見据えて、コロナ禍前は頻繁に現地を視察しましたが、商品の価格は2~3倍、賃金も日本の1.5倍です。ただし、現場のオペレーション能力は日本人のほうが断然高い。日本の外食業界の発展のためには、もっと利益を獲得できる体質にしていかないといけない。私が同業の経営者にアメーバ経営の導入をすすめる理由はそこなんです。

「アメーバ経営」導入事例
 
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