「鳥貴族」は2016年7月期決算で大幅な増収増益を達成すると、国内1000店体制をめざして出店を一気に加速した。ただ、その出店戦略が裏目に出て自社競合を招き、17年7月期は増収減益。翌18年7月期の既存店売上高はマイナスに転じてしまった。新規出店の一時停止と不採算店の徹底を余儀なくされたが、現場の採算管理を強化し、利益獲得の意識を高めるために採り入れたのが「アメーバ経営」だった。
19年2月の導入にあたっては㈱鳥貴族ホールディングスの大倉忠司社長が陣頭指揮を執り、マネジャーや店長に対して自らの言葉でアメーバ経営の意義を力説。経営理念の浸透を図るとともに、理念達成のために利益創出が必要なことを説いた。これが社員の経営参加意識を高めることにつながった。
アメーバ経営はまずエリアマネジャー(AM)、課長より上の階層で適用。リーダー層の理解を深めたうえで、19年10月から店舗での運用をスタートし、20年7月に直営全店への落とし込みを完了した。採算強化を徹底した結果、19年11月~20年1月の第2四半期は営業利益率9.6%に致達していた。
こうした成果を生み出せた要因として、現場が主体性を持って取り組んだことが挙げられる。鳥貴族でいえば、各店の店長が毎月、店の収益計画や改善計画を達成するためのアクションプランを立案。その成果をもとに次月の目標とアクションプランを立てる。店長と担当AMは毎月会議を持ち、成果と課題をフィードバック。AMと統括マネジャーの会議、営業本部長や経営幹部も参加する「業績検討会議」も毎月開催し、会社や部門ごとの年次計画を達成できるよう現況を細かくチェックする体制を整えている。
導入から3年が経過し、アメーバ経営が現場に浸透してきたことで全員参加経営と収益体質は強化された。それがコロナ禍に立ち向かう大きな動力になっている。
「アメーバ経営」は、稲盛和夫氏が京セラ㈱の事業拡大を進めていく中で編み出した経営管理手法だ。「会社経営とは一部の経営トップのみで行なうものではなく、全社員が関わって行なうもの」という稲盛氏の考えのもと、組織を「アメーバ」と呼ばれる小ユニットに分け、独立採算で運営していく点が特色だ。外食企業であれば店がアメーバに当たり、店長がアメーバリーダーとして採算を管理し、売上げの最大化と経費の最小化に取り組んでいくケースが多い。
独自の「採算表」をもとに売上げと経費を管理するわけだが、店の運営に原価と人件費以外にどのようなコストがかかっているのか、その勘定科目を事細かに確認する。細かい科目であれば店長だけでなくスタッフも知恵を出し合い、改善に取り組む。現場の創意工夫が活かされることでスタッフの経営参加意識も高まり、全員参加経営を実現できる。
各店長は毎月のエリアマネジャーとの会議で当月の収支計画と前月の実績の差異を分析し、改善すべき重点課題を洗い出して月末までに次月の予定を立てる。採算管理のPDCAサイクルの運用を徹底することで、予実管理の精度を上げている。また、会議を通じて他店の店長たちと情報共有することで、各店長は自身の店の電気代が高いのか低いのか、売上げは同規模店よりも大きいのか小さいのかなどの比較が可能となる。このように各店長が日々経営者としての経験を積むことで、多くの店長が経営者意識を持つリーダーとなっていくわけだ。
㈱鳥貴族ホールディングスさまとは、2018年5月の『アメーバ経営』導入時からコンサルティング支援をさせていただいています。アメーバ経営はプログラムのように導入後すぐに成果が得られるものではなく、運用を含めて経営陣も現場もそれなりの労力がかかります。そのため、この経営手法を運用していくうえで欠かせないのがトップの本気度です。
導入の第一ステップとして大倉忠司社長へのヒアリングを実施しましたが、『なぜアメーバ経営を導入されたいのか』『事業でなにを実現されたいのか』を繰り返し問いかけました。これは大倉社長に目的意識を強く持っていただくことが狙いなのです。
運用開始にあたっては、大倉社長自らがアメーバ経営の必要性を経営幹部から店長にまで説かれました。幹部陣が経営トップの思想と目的をしっかり理解したうえで、部下の指導に取り組まれたことが現場への落とし込みの精度を高めたと認識しています。