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INTERVIEW

別冊専門料理「グランシェフ13」より

私らしい料理のメッセージ

山根大助氏(ポンテベッキオ オーナーシェフ)
 
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 私が料理の前提として考えているのは、イタリアにある料理をそのままに作ることではなく、作り手である私の個性を感じてもらえるものでありたいということ。他の誰のものでもない私の世界、独特の切り口や発想のある料理であり、しかもイタリア人に食べてもらった時にまぎれもないイタリア料理だと認めてもらえる料理が理想です。今日も、ベルギーの一ツ星レストランのシェフであるイタリア人の方が食べに来てくださったんですが、オリジナリティのあるイタリア料理だと喜んでくれました。こういう評価をいただいた時が一番うれしいですね。
 私の持っているプロフィールは私だけのものですから、感性や発想というのは私の過ごしてきた環境が大きく影響しています。どうがんばってもイタリア人と同じ感性にはなれないし、またならなくてもいい。仮に私がイタリア人だったとしても、他のイタリア人と同じ素材を前にして料理を作れば、両者は必ず違うものになっているはずです。それが私の個性であり、そうして与えられたものを大事にしたいと思うんです。

「素材を生かす」という言葉は、まさに料理の真実を突いている

――山根氏は、日本のイタリアンレストランで三年半修業後、イタリアで二年間を過ごし、帰国して半年後に独立。二四歳の若さでオーナーシェフになった。修業期間が短かったことから、試行錯誤の中で自分なりのアイデアでいろいろな料理を作ってきたという。

 この一〇年で、自分でだんだん変わってきたなと思うのは、単純明快な料理になってきたことですね。「素材を生かす」とはよく言われる言葉ですが、まさに真実を突いていると思います。今回の料理の中(本誌では料理7品を紹介)にも、ブイヨンで煮る必要がないと判断したものは水だけで煮たり、ブイヨンを水で割った薄いだしで煮出しているものがあります。バターを入れたりブイヨンを使いすぎると旨みが強くなりすぎて、素材の風味がぼけてしまうんです。一つひとつの味の完成度が高いと、かえってバランスをくずすことにもなりかねない。料理を食べ終わった時の満足感、印象度は、どれだけ主たる素材の味が引き立っているかで決まります。お客さまが、その素材のおいしさをはっきりと把握できるものでありたいんですね。
 ですから私は料理を作るスタート地点で、まず素材を見て、何を食べてもらいたいのかを絞り込みます。そして最終的な仕上がり具合い、煮つまり具合い、からみ具合いなどをイメージする。そこから逆算して、ならばどういう調理法にすれば一番おいしくなるのかを考えます。いろんなものを組み合わせて、それをハーモニーの妙ととらえるのでなく、たった一つの私のメッセージとして明確な形で伝えたい。(中略)
 こんなふうに、イタリア料理の範疇の中で自分なりに何かおもしろいものをやってみようと工夫するうち、自然に古いリチェッタに目が向くようになった、ということも変化の一つです。だれかが自分の解釈で進めた料理は、それ以上には発展させることができないんですね。それは到達点まで行ってしまったものですから。そこで古い地方料理の、素朴なおいしさに意識が向かうようになった。アレンジの余地がまだあるからです。
 こうして、だんだん息の長い料理を作れるようにもなりました。今思うに、昔はいいできのものもあったけれど、すぐに陳腐になってしまうものも多かった。翌年のシーズンになると、自分で魅力を感じなくなってしまったり……。今は作り出す時にじっくり考えるようになったぶん、骨太な料理が増えてきたように思います。

レストランは一つの遊び場。私たちはその遊びを提供するプロデューサーだと思う

――大阪、兵庫、京都のイタリア料理店のシェフやサービスマンで構成される関西イタリア料理会は一九八八年に発足。月一回の勉強会を始め、イベントなども企画して、会員相互の親睦や情報交換を密にとっている。山根氏は発足当時から幹部として会の運営に携わってきた。

 勉強会では、料理の基本となることやワインの情報交換がとても盛んです。実際、みんなワインをよく飲んでいますし、知識も豊富。私はそんなに量を飲めるほうではありませんが、味は知っておこうと思い、よそのレストランやワインバーなどで、できるだけたくさんの種類を飲むようにしています。料理人というのはどうしても料理優先でワインがおろそかになりがちなので、真剣に取り組む必要があると思ったんですね。
 これまで、あれやこれやとたくさんのワインを飲み続けてみて一つ感じたことがあります。それは、料理とワインをぴったり合わせることに執着しすぎることはないのではないかということ。重厚なワインを飲むのに、これは絶対に合わない料理というのは案外少ないものだと思います。まあ、今回の例でいうと、ウニの料理(温泉玉子とウニ、濃いブロードとともに)やポテトのティンバッロ(温かいポテトのティンバッロとキャヴィア)、エビのパート・フィロ包み(トリュフ風味のスカンピ、パリっとしたパートで包んで)に重いバローロを合わせたら相性としてしんどいところはあります。でも鶏、鴨、牛舌の料理は、全体に軽いトーンではあるけれど、旨みがしっかり出ていますからバローロでも充分です。
 以前、ワインバーで飲んでいたら鶏を焼いてくれたことがあったんですね。ソースもなく、ただ香ばしくパリッと焼いただけのもの。その時は重めのワインを飲んでいましたから、普通なら合わないと思われる組み合せでした。でも、実際にはワインがすごくおいしくなりました。パリッとした風味とジューシーさだけで充分においしくなることがわかったんですね。極端なことをいえば、パンをかじるだけでもワインはおいしく飲める。ワインは比較的許容範囲が広いんです。
 料理とワインは、そのベクトルさえ間違っていなければ、多少の軽さや重さには幅があると考えていいと思います。よほどの邪魔さえしなければ、ワインは料理によっておいしくなるものですし、料理もワインがあることでおいしくなります。だから、この料理にこのワインでなければならないという絶対的な考え方よりも、まずはワインと料理を楽しむことを、お客さまにもアピールしたいと思います。
 私は、レストランは一つの遊び場だととらえています。いろいろな引き出しをあけてもらい、おもしろいこと、楽しいことを享受してもらう場。どのようなものを使ってどういった料理を作り、どんなワインをどんなグラスで飲んでもらうか、そしてどのような形でサービスするか。すべては店からの提案です。私たちはその遊びを提供するプロデューサーであると思っています。

■山根大助(やまね・だいすけ)
1961年、大阪生まれ。大阪あべの辻調理師専門学校卒業後、神戸「ドンナロイヤ」に入社して84年渡伊。ミラノ「グアルティエーロ・マルケージ」をはじめ各地で2年半修業する。86年に独立。本店である大阪・北浜の「ポンテベッキオ」をはじめ、5店舗を展開している(2013年11月現在)。著書に『素材を生かす山根流イタリア料理100』(柴田書店)などがある。