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INTERVIEW

月刊専門料理 1985年4月号「若き料理人に贈る言葉」より

技術以前に常識を身につけろ

高橋徳男氏(アピシウス 初代料理長)
 
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センスを磨くには幅広い勉強が必要だ

 昔は「名人」と呼ばれる人がいた。
 ほかのことは何もできないけど、仕事はできる、という人たちだ。
 確かに昔は黙って仕事さえやっていればそれでよかったが、現代の料理人はそれでは出世は望めない。
 仕事ができることはもちろんだが、そこに一般的な常識や外国語など幅の広い人間であることが要求されているのだ。
 これからの時期、新しく調理場に入ってくる若い人たちの面接をする機会が多いが、私がまずチェックするのは服装だ。
 社会人として面接会場に背広とネクタイ姿で来るのは常識。それなのにジーパンと運動靴なんかでやってくる人間はそれだけで採用しない。
 また履歴書も写真や印鑑がきちっとしていないのも問題がある。
 ただし、言葉遣いや態度は問題があっても入ってから直すようにしている。それはこちらから教える。しかも、同じことでも三回は教える。しかし、三回教えてもまだ覚えないときは、思いっきりなぐる。手加減はしない。
 以前、それで怒ったことがあった。その人間の頭をメロンでなぐり、小麦粉をあびせかけた。その男は出て行ってしまったが、「どうぞどうぞ、出て行って下さい」という気持ちだ。私の調理場で私の指示に従わない者は必要ないからだ。もっとも、あとで「チーフは昔はやくざだったんですか」と聞かれてしまったが。
 さて、この業界にいる人間の最大の欠点は「新聞を読まない」ということだろう。読んでもせいぜいスポーツ新聞程度。それでは社会的常識というものが養われないから、最低でも一紙は読んでもらいたい。
 私は書店で目についた本は買って私の部屋の書棚に入れておくが、心あるやつはそれを引っぱり出して読んでいる。この仕事の最後の勝負はセンスがあるかないかで決まるのだが、少しでもセンスを磨くためには幅広く何でも勉強することが一番なのだ。くだらないマンガを読んでいたのではセンスは磨かれない。私の調理場でマンガを読んだ者は、その場でクビである。

上の人間を追い抜くことを考えろ

 この道に入ったからには、自分はどのようなコックになりたいのか、その目的意識をはっきり持ち、そのためにはどうしたらよいのかを考えない人間はまずだめである。
 コックとして出世したいのであれば、いい仕事を覚えるために努力と勉強を重ねることである。
 調理場に入ったら、自分の上の人間を追い抜くことを考えることだ。
 先輩の足元をあやうくするように、料理長をさえ追い抜くように考えて仕事をすること。
 ただし、そのためには料理長の二倍も三倍も努力しなければ追い抜くことはできない。
 しかし、えげつないやり方は論外だ。やはり、人柄が素直で有望な人間は、誰かが引っぱってくれるから、将来も順調に行くものである。
 とにかく勉強することはいっぱいあるのだから、一所懸命やること、苦労は自分からかってでもすること、これが若い人にとっては一番だろう。