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INTERVIEW

月刊食堂1992年6月号トップインタビューより

日本で一番質の高い企業にしよう

江頭匡一氏(ロイヤル創業者)
 
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ロイヤルらしさとは、〝日本で一番質の高い企業にしよう〟 というポリシーです

――江頭氏は、その年、ロイヤル経営再構築推進部長に就任。

 私はロイヤルの創業者ですから、ロイヤルを自分の子供のように思っています。
 ロイヤルは今年、創業して四二年めを迎えました。八年後には五〇周年を迎えることになります。戦後の混乱期に創業した時の初心、そしてロイヤル経営理念に表現されている設立の初心は、いまも変わりません。
 当時まだ水商売と言われていた飲食業を、ロイヤルをもってして日本で産業化したいという夢、初心を大きく掲げ、みんなで努力してきました。
 昭和五三年、それまで私の個人企業に近かったロイヤルを上場させるについては大変迷いました。もちろん良質の(金利の低い)資本を調達することが目的ですが、上場することで一つの産業として社会に認知されることになり、またわが社の社員の誇りと生活向上につながれば、という考え方のもとに株式上場に踏み切ったわけです。
 そして将来、その上場時を上回るほどの株主のご期待を得られるよう、また若い社員たちが自分の将来をロイヤルに託して、価値ある安定したロイヤルにするために、この二年間を経営再構築の期間にあてました。
 昨年二月から七月いっぱいにかけて、北條社長以下経営陣に、経宣書構築のプランをつくってもらいました。そのプランをなぜ私がつくり直そうと思ったかと言うと、いまのロイヤルにはもっと大きな改革が必要だと考えたからです。
 改革を行なうためには、強力なリーダーシップが必要になります。呻吟しながら考えた末、私は幹部のみなさんの補佐を受けながら、創業者として改革の指揮をとらねばならない、と決心しました。
「ねばならない」ということです。私は四十数年間経営者としてやってきましたし、創業者ですから遠慮なくものを言うことができる。過去の経験から将来のことがきちんと見える。現在のままの習慣、前の考え方を変えるというのは革命と同じですから、少々厳しいことも、嫌なことも言える人間でなければできない。(中略)
 五年後には必ず目標を達成できる、創業五〇周年を迎えた時に、エクセレントカンパニーとして誇りを持ってきちんとできるようになる、そう考えています。
 そのためには、社員のみなさんが各人、一年前の自分と比べどれだけ成長したか、絶えず反省し努力を重ねて欲しい。職業について、その人の職業に対する知識と技術、これを集積することによってロイヤルが成長する、この考え方を主体に今回の経営再構築をしたいと考えます。

新しい事業を展開して、それぞれの真価を実感しました

――ロイヤルでは当時、コントラクトフードサービス(給食事業)をはじめ、シズラー(カリフォルニアスタイルのレストラン)、イルフオルノ(カリフォルニアスタイルのイタリア料理店)など、新事業を積極的に推進している。

 シズラーについては、実際やってみてレストランとしての素晴らしさを理解しました。
 チェーンレストランは、店舗を大きく拡大していくといくつかのウィークポイントが出てきます。たとえば、サンボス(アメリカのチェーンレストラン)の崩壊。サンボスは一〇〇〇店を超えてチェーンレストランの一時代を築き上げていました。それが一瞬にして崩れたのは、優秀な部隊組織の長が他に離れていったからなんです。部隊組織それぞれの価値観が変わることの恐ろしさを、私は震え上がるほど身に感じました。
 しかし、シズラーを今日のチェーンに仕立て上げたコリンズさんは、アメリカでチェーンレストランのウィークポイントを解決する手法をつくり上げています。
 簡単に言えば、シズラーはマニュアルが詳しくないということです。よく絞り込まれていて、基本がしっかりしています。たとえば、テーブルのお客さまに水をついで差し上げるとするでしょう。その時は黙って水をつぐのではなく、「お水はいかがですか」と声をかける。つがれるとお客さまは「ありがとう」と答える。その後、何か語りかける。そういう具合にシズラーは、お客さまと従業員との会話を大事にしています。これが基本なんですね。(中略)
 また、私はアメリカのイルフォルノのオーナーであるジョセフさんに、大変敬服しています。彼は料理に非常に幅広い見識を持っています。礼儀とフレンドリーということを間違えず、よく理解し、イルフォルノの明るくオープンな空気をつくり上げています。ですから、僕と彼との契約の中で一番重要なことは、ジョセフさんに二ヵ月に一週間日本に来てもらうことなんです。
 イルフォルノの展開について簡単におっしゃいますが、イルフォルノをもう一店出すということは、ジョセフさんと同じ人間をもう一人つくることです。簡単にはつくれません。(中略)
 ロイヤルホストの出店を抑えている、ということはありませんよ。偶然そうなったという感じです。私は昭和五〇年代の終わりに、チェーンレストランは個性をはっきりさせることが必要だと思いました。ロイヤルホストは、五〇〇店、六〇〇店つくらなければダメだというのではありません。お客さまに豊かなレストランの空間で、レストラン屋としてのちゃんとしたレベルのメニューを提供してさし上げる。不採算店舗はどんどんクローズして、出店は一〇〇%利益が出る店をつくるように……。この点、いまロイヤルホストの体質を変えつつあります。
 また、チェーンレストランの一方で、他のいろんな事業を拡大しています。コントラクトフードサービス、シズラーや専門店、空港レストランやエアケータリングという具合に、会社としてもエネルギーの総量がありますから、結果的にロイヤルホストの出店が目立たなかったということでしょう。

企業の成長とは、社員一人ひとりの成長を意味します

――江頭氏にとって「ロイヤルらしさ」とはどういうところにあるか。

「ロイヤルを日本で一番質の高い飲食企業にしましよう」ということです。
たとえは、デニッシュペストリーは本当に誇りを持っておいしいと思います。ロイヤルには技術があります。
 幕張メッセは非常に高い評価を受けています。あれほどの大型店舗をきちんと運営できるのはロイヤルしかないでしょう。
 幕張のWBGの中に五〇〇坪のレストランを出店しました。これを三井不動産がいろいろな面で評価してくださり、来年五〇〇億円をかけて完成する船橋ららぽーと内のスキードームのレストラン部門でロイヤルの食材を使わせてほしいという申し出がありました。これは大変な誇りであると同時に、その信頼に応えなければならないという責任を感じています。
 三菱地所がつくるランドマークタワーの七〇〇坪近いレストランでも、五社の大変なコンペだったのですがロイヤルに決定しました。
 福岡空港でも第四ビルで私どもの意図をかなえてくださり、一四七坪のレストランが決定しました。羽田の新空港ビルではミセス・エリザベスマフィンを大変いい場所に一八坪いただくことができ、四階には日本で初めてのデリ・レストランを出店します。
 企業というのは誇りがなくてはいけない。機内食でも、ロイヤルが一番おいしいですよ、とスチュワーデスさんに言われることに、どれだけ喜びと誇りを感じることか。会社の規模だけを追うのではなくて、一軒一軒のお店も仕事も自分たちのできる範疇で、一番いいものをつくろう、人一倍努力しようということです。
 これが「ロイヤルを日本で一番質の高い飲食企業にしましょう」ということなのです。
 ロイヤルの業容は拡大していきますが、それは企業の成長とは異なります。企業の成長とは、社員一人ひとりの成長を意味します。会長である私を含め、二七〇〇名の社員全員が自分の職業についてそれぞれ一年ごとに能力をアップさせていく経過の中から進歩があると考えます。マネジメント力も知識、技術も人格も含めて向上させていき、三年経てば二年分だけ二七〇〇名の社員レベルが確実に上がっていくこと。また幹部は自分の部下をどれだけ育成したか、社員一人ひとりの成長のトータルがすなわち企業の成長だと思います。
 わが社の社員の中から社長が生まれ、副社長が生まれ、各セクションの主要な地位を社員が占めていけるようにすること、これが成長であると考えます。
 ですから、社員一人ひとりが成長することにより、ロイヤルの成長があるのです。

■江頭匡一(えがしら・きょういち)
大正12年(1923年)3月生まれ。1946年2月旧制明治大学専門部法律科中退。47年6月米極東空軍御用商開始。50年4月キルロイ特殊貿易㈱設立。56年5月ロイヤル㈱設立、代表取締役社長就任。82年4月(財)江頭外食産業及びホテル産業振興財団設立、理事長就任。91年3月ロイヤル㈱取締役会長就任、等。2005年4月に逝去。