僕の料理は東洋料理だ
日本の素材が中国の調理法と調味料が出会った結果が僕の料理
中国料理といっても地方によって調味料も素材も少しずつ違うし、調理法もさまざま。僕は広東料理系統を修業してきたけれど、今、僕が作っている料理が広東料理かというと、広東料理もあるし、そうでない料理もあるわけだ。さらにそれは中国料理という枠の中に入るかというと、厳密に考えると東洋料理といったほうがいいんじゃないだろうか。
こんなことをいうと抵抗を感じる人が多いだろうけれどね。いやウチの店は上海料理だ、広東料理だ…… ってね。それはそれでいいんだけれど、僕の料理は東洋料理。その東洋料理というのは、日本の素材が中国の調理法と調味料が出会った結果が僕の料理なんだということだけど……。
つまりね、あるひとつの中国料理があって、それは中国のその地方の素材を使うからおいしいわけだ。だから日本でその料理を作ろうとして、無理して入手したその素材を使っても、同じおいしさには仕上がらない。それよりも、日本にある素材のほうがおいしいとしたら、それを生かしたほうがいい。
魚介類なんか特にそうなのね。″中国料理ではこんなサカナ使わないんだ″じゃなくて、日本ではこれがおいしいから、このサカナを使って料理を作ろうということだね。中国へ行ってタウナギの料理を食べたら、とてもおいしいけれど、タウナギは日本にはいない。空輸して使うことはできるけれど、そうしたら価格があがってしまう。じゃあ日本のウナギをタウナギのかわりに使ったらどうだろうと考える。それは別の料理になってしまうわけだよね。
そのウナギの話なんだけれど、この間四国に出かけたときに、ウナギの養殖場の見学に行って、ウナギ料理をやろうとふいに思った。そこのウナギの加工方法というのが、ウナギを開いて地焼きしたらすぐ氷漬けにしてウナギの身をしめているわけ。これを中国料理に使ったらいいだろうと、その場で交渉して送ってもらうことにした。中国ではこんなやり方で、つまりウナギのかば焼きの下処理加工方法はやらないわけだからね。でも氷でしめることで、僕はタウナギの歯ざわりに近いものになっていると感じたから……。
ただやみくもに日本の素材で調理するっていうことではなくて、それは中国の素材を知った上でしかできないことなんだけれどね。中国や香港へ出かけたら、とにかく料理を食べて、素材や調味料を見て、その上で日本の素材を生かした中国料理を作っていくということ。その一方で中国にこだわる部分は徹底的にこだわっている。たとえば調味料。ひとことで豆瓣醬といっても、日本で作られる豆瓣醤は、トウガラシミソであの赤くて辛いミソだけれど、本来はソラマメのミソだから、中国にはソラマメの香りや粒を生かした豆瓣醬がある。
中国や香港の本でその豆瓣醬の名称や産地を書きとめておいて、出かけた時にその現物を確かめて、日本の貿易会社に頼んでかめで輸入する。
だから僕が東洋料理といった意味をいい直すと、日本の素材を中国の味に料理するといえばいいのかもしれない。もちろん伝統的な中国料理の数々を今でも僕は作っているし、そういう料理だって大切だと思う。だからそれ以外の料理も全部含めて、自分の料理は東洋料理だっていってるわけだ。
おいしさを追求していくと、素材に行きつく
香港の人たちの食べることにかける情熱はすばらしい。だから香港の料理人はそれに応えるためにいろいろ工夫しなくちゃいけないっていうけれど、それは日本でも同じことでね。
その工夫する部分というのが、日本の素材へのこだわりということだ。そういう料理をいきなりメニューにのせても客は食べてくれないけれど、コースメニューに組込んでその料理を知ると、今度は自分から食べてみようかということになる。そうして客も店もレパートリーが増えていくんだからね。
昔はそれまでにあった中国料理の中から、こんな料理がある、あんな料理があるということを客に知らせるためにコースを組んだけれど、今はそれだけじゃだめ。食べる側にとっても、作る側にとっても、もっと何か……という要求があるわけだから。
中国料理というのがこれだけポピュラーになって、日本人の生活の中に入りこんできたのは、それほど昔のことではなくて、ここ20年か30年の間の変化だけれど、ここまで来ると中国料理の一地方料理として、日本の中国料理ができてきても不思議じゃないと思う。
そう言いきることがいけなければ、南国酒家の味は、そうやってできてきたものだっていうことだ。
日本人が中国料理にどんどんなじんで来たということは、中国料理が日本化したということでは決してない。簡単にいえばそれは中国料理がおいしいからで、そのおいしさを追求していくと、素材に行きつく。日本にはこんなにおいしい素材がたくさんあるのだから、その素材を使ってもっとおいしい中国料理を作りたいと思う。
だから中国や香港にはない日本の中国料理なんだ……。
南国酒家の料理の中に″中国にはこういう料理はない″といわれるものがあるかもしれないけれど、だから僕は、「僕の料理は東洋料理だ」って言ってるの。