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INTERVIEW

月刊専門料理 1987年2月号「今月の顔」

大切なのは自分の料理が好きだということ

ジャン=ピエール・ヴィガト氏(レストラン・アピシウス〈フランス〉 総料理長)
 
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 残念ながら私は、いわゆる有名な料理長の下で働いたことがありません。いくつかの店で料理人として働いてきましたが、それほど評判の良い店ではなかったし、これといって学ぶべきことがあったわけでもありません。できれば有名な料理長の下で働きたい、と思っても、二〇歳そこそこの料理人だった私は、そんなに腕もよくなかったですからね。ですから私は、他の料理長たちとは成長のプロセスが違うと思っています。結局、自分自身で学んでいくしかないわけですから、いろんな料理長の料理を食べることによって、学んできた、といっていいでしょう。たとえばジョエル・ロビュション。彼の料理は大変においしいと思いますし、魅せられもしました。彼を料理人として大変尊敬しています。でも、 ロビュションの料理の作り方は知りません。それでいいと思っています。彼から作り方を教えてもらうのではなく、あくまで客として食べて、満足する。それも大切なことだと思っているからです。
 私が最初の店『グラングージエ』(Grandgousier)を18区に開店したのは、今から七年前になります。小さい店でしたが、一年目でミシュランの一ツ星を獲得することができました。このグラングージエは調理場は二人、従業員すべてで五人という小さな店でした。魅力的な店でしたが、限界もありました。でも最初の店ですから、それまで学んだクラシックな料理をベースに仕込みもしっかりして、何とかお客さんに楽しんで帰ってもらおうと、せいいっぱい努力しました。そのうち、やや余裕もでき、一ツ星をもらったことで自信が持てるようにもなって、少しずつ自分なりに工夫して、モダンな料理を作り始めました。そうするとおもしろいもので、ガイドブック『ゴー・ミヨ』が82年版でクラシックな料理という評価から、ヌーヴェル・キュイジーヌに評価を変えてきました。フランス中がヌーヴェル・キュイジーヌの大波を受けて流れていたころですから、その時代に独立したものとして、それに影響を受けなかったわけではありませんが、私としては誰かの料理の影響というよりは、余裕ができて自分の好みの料理を作り始めたら、それが、ヌーヴェルと評価された、ということではなかったかと思います。

独自の料理は毎日の仕事から自然に生まれる

 グラングージエは三年ちょっとで手放しまして、今のアピシウスを初めるまでの一年間は店を捜し回っていました。そして本年(87年)でアピシウスも三年目をむかえるわけです。
 私の料理の特徴に関してよく言われることがあります。そのひとつが皿の色です。現在のアピシウスでは白と黒の皿を使用していますが、そのうち料理によっていろんな色の皿を使ってみたい、と思ったりしています。色を研究していきますと、お客さんに与える印象などを、いろいろ変えていくことができますからね。ただ、大切なのはバランスですね。特にソースの色とのバランスは大切です。たとえば黒の皿に茶色のソースは決して似合わないと思います。赤い皿は過激で印象の強いものですが、パステルカラーの料理を盛り付けてみると、実に鮮やかな印象を人に与えてくれます。このようにして、灰色の皿、 マロングラッセ色の皿……色々な皿を使ってみたいと思っています。透明なゼリーの料理をガラスの皿に盛る、なんてことも、考えるだけで楽しいものですね。
 もうひとつ、私の料理はとても軽くて、日本的だというふうによく指摘されます。実は今年の二月に日本に初めて行くことになっています。そこで日本の料理人と働き、日本料理でも見る機会があればその影響を受けるかもしれません。しかし、これまでは意識的に日本風に料理を作ってきたつもりはありません。何かで見た日本の料理の印象が、たまたま私のイメージと一致したのかもしれません。自分独自の料理というのは、特にこんな料理を作ろうという意識より、毎日の仕事の中で自然に生まれてくる、といったほうがいいんじゃないでしょうか。
 料理を作る時は、料理入なら必ずいい料理を作りたいと思うはずです。たとえばある日ポトワーを注文されたとします。大変に古い料理ですが、それを私なりにいい料理を作りたい、と思いながら作っていくと、とても現代的ですばらしい皿になったりします。料理というのはそんなもんなんじゃないでしょうか。そこで大切なのは料理長である私が、自分で作っている料理がとても好きだ、ということです。そうして毎日を努力していけば、自然に客に好まれるスペシャリテというものもでき上がっていくのでしょうし、そうした中で、自分というものを主張していく。それが料理人だと思います。そして協力者です。客というのは料理だけを食べにくるわけではありません。皿の色も雰囲気も、サービスも、すべてそれらのアンサンブルを楽しみにくるのです。したがって私の成功の半分は、妻とスタッフに負っている、このことを忘れてはいけないと思います。