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企業の商品開発 おいしい料理、発想の原点
大繁盛店に共通する要点は言うまでもなく「おいしい料理」にある。それは味であり、品質であり、ボリュームであり、何より価格以上の価値を指す。本特集は商品開発に携わる10人のプロフェッショナルに発想の原点を聞いてみた。
 
 

居抜きの設備で商品設計できてこそビジネスに直結する

 2005年に東京・吉祥寺に開業した屋台「subLime」を皮切りに、現在50店舗の居酒屋業態を展開する㈱subLime。2011年4月にはアイスクリームショップ「レインボーハット」を運営する㈱RHコーポレーションをグループ会社化した。現在は鮮魚居酒屋の「ととしぐれ」、もつ鍋、馬刺、手羽先から揚げが売りの「エビス」、鶏モモ焼き専門店「サンダーバード」、バル業態の「生ハム」など直営業態を4つ運営、全127店舗を布陣する。

――店舗数、業態数も数多くありますが、業態開発およびメニュー決定はどのように行なっていますか?

 まず、当社の出店戦略のひとつに“居抜き出店”が挙げられます。そのため物件の設備状態を見て、既存業態をあてはめていくのが出店の流れです。そして、その立地と商圏に合わせて既存業態の中で変化をつけていきます。たとえば、埼玉の武蔵浦和の駅ビルにある「キャプテンバッカス」はピザを主力とした洋業態ですが、物件に焼き釜がついていたので、これまでも営業実績のあるハンバーグ主力の「あらびき」にしようという声が上がりました。けれども駅ビル内では宴会需要が取れないし、かといってバル業態にするとファミリー層が獲得できないと判断。そこで考えたのが、ディナーでアルコールが出るピザ業態でした。現在は23坪で400万円を売り上げています。
 全店のメニューは僕を中心とした営業部で決定しています。僕は、原価をそこまでかけずに、ABC分析の結果を基にした「季節感のあるA商品」をつくれれば勝機があると考えています。そういった点では、季節感のある食材や旬で変わるメニューは大切な要素だと思いますね。
 あとは、コンセプトから逸れない料理であることと、原価とオペレーションの兼ね合いを考慮したメニューであること。「ととしぐれ」の場合は、キッチンに揚げ場、刺し場、サラダ場(冷菜場)、ガス場と、作業場所ごとに人員を配置しています。注文バランスが偏ると、キッチン内での忙しさにバラつきが出てしまい、一定のスタッフに負担がかかりますよね。これはすべてメニュー構成が影響しているので、メニュー構成とそれに伴うメニュー表の見せ方には気を遣っています。

――居抜き出店となると、設備や提供商品に制限が出てくると思いますが、新たな投資なども行なわれているのでしょうか?

 基本的に設備投資は行ないません。1店舗当たり600万円というのが投資の基準です。確かに居抜きとなると、ある程度の制限は出てきますが、オペレーションの効率化を考えての投資は行ないません。良い設備はお金を出せばいくらでも買えますが、出店に投資しすぎると企業のキャッシュをいじめることになるので、店舗展開が遅くなってしまいます。これまでも回収スピードを半年〜1年以内にし、勢いのある店舗展開をしてきたのです。
 設備は、基本的な居酒屋にあるもので十分だと思っています。特別なものと言えば、「サンダーバード」なら炭火の焼き台、「キャプテンバッカス」なら焼き釜などでしょう。先ほども申しましたが、譲渡された設備に合わせてブランドを当てはめていき商品開発を行なうので、逆に言えば“この設備がなければつくれない”業態はやらないということです。設備がなくても良いものを作るのがプロだと僕は思うんです。スタッフの技量が問われますが、限られたもの、そこにあるものでメニューをつくることが当社の考え方なのです。

――商品をおいしく提供するために必要なことは何でしょうか? 管理方法などに特徴があるのでしょうか?

「ととしぐれ」は毎日新鮮な魚を仕入れているので、仕入れ状況によって内容も変化します。そういった意味では、「新鮮さ」や「できたて感」「さばきたて感」などがおいしく提供できる理由のひとつだと思います。一番人気は刺身系で「ちょい盛り(刺し盛り合わせ)」ですが、この商品は1日平均20食は出ますね。その他、「長野県産 ヤングリーフのサラダ」や「野菜の蒸篭蒸し」などの野菜メニューも人気です。
 新鮮な状態で売るためには、その日に売り切れるように小ロットで仕入れるようにしています。その分発注の難しさもありますが、在庫を抱えてロスになることは当然ながら避けたいですね。
 一方、武蔵浦和の「キャプテンバッカス」のピザは、発酵済みの生地を仕入れて、店内で延ばしソースを塗ってトッピングを乗せて焼くというオペレーションにしています。これにより、生地づくりの仕込み時間がいらない他、味の面でもバラつきがなくなります。また発酵済みなので管理スペースを取らないメリットもあり、使い勝手はとても良いです。生地はもちもちとした食感がお客さまに好評で、1日平均60食は出ますね。あとは、「スペインオムレツ」や「とろとろスペアリブ」なども、お酒のつまみとして人気があります。
 ちなみに全店におけるフードとドリンクの売上げ構成比は6対4。フードが少し多いくらいですね。これまで出店速度が早急だったために、店舗ごとに原価率はバラついていましたが、現在は原価率が平均32%になるよう全店のコストを改善している最中です。

――先ほどピザ生地など、加工製品を仕入れているというお話でしたが、オリジナルでつくっているPB製品などはありますか?

「エビス」で使用するもつ鍋のスープや手羽先のタレ、「キャプテンバッカス」のハンバーグのタネなどは業者に委託してPB製品をつくってもらっています。味のブレをなくすこと、管理をしやすくすることなどが大きな理由です。
 これだけ店舗があると、セントラルキッチン(CK)を設立することも考えられますが、固定費を考えるとCKを抱える必要はないと思っています。業者との共同開発でPB製品はつくれますからね。また取引のある業者がテストキッチンを持っているので、そこで商品を開発しますし、在庫管理も業者に委託しているので、保管スペースも必要としません。
 現在、店数は118店でようやくスケールメリットが出てきました。ただ、PB製品の原価率は自社で製造するのに対して約1.8倍のコストがかかるので、全店での使用量を考慮して委託しなければなりません。したがって、「店内での仕込みの手間を省くためにPB製品にしたいのに、使用料が少ないのでできない」ということもありますね。

――今後強化したいメニューや採用したいメニューはありますか?

 各業態の看板メニューはブラッシュアップしていきたいですね。「ととしぐれ」の刺し盛りや「エビス」のもつ鍋、「キャプテンバッカス」のピザなどがそれに当たります。お客さまに、より「コストパフォーマンスが高い」「お得だ」と感じてもらえる商品をつくることが重要なのは言うまでもありませんが、仕入れ値が高くてどうしても売価を下げられない商品もあるので、現在は仕入れ値を下げる工夫を考えています。利益を出すには、仕入れ値を落とすか売価を上げるしかありませんが、後者はリスクが高いので、いかに仕入れ値を下げられるかが課題でもあります。
 今後は“肉バル”をやることも考えているので、コンセプトに沿った精肉のグリル商品は採用したいメニューのひとつですね。あと、都内に水炊きで展開している居酒屋が少ないので、水炊きは採用する価値があると思っています。

「ととしぐれ」の売れ筋上位5品、「キャプテンバッカス 武蔵浦和店」の売れ筋上位5品

DATE

㈱subLime
東京都港区芝4-18-5
TEL:03-6435-0020
設立:2006年6月1日
資本金:2200万円
店舗数:127店舗(直営、業務委託、FC含む)
企業年商:40億円
従業員数:約900人(P/A含む)
http://www.32lime.com/

 
 
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