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企業の商品開発 おいしい料理、発想の原点
大繁盛店に共通する要点は言うまでもなく「おいしい料理」にある。それは味であり、品質であり、ボリュームであり、何より価格以上の価値を指す。本特集は商品開発に携わる10人のプロフェッショナルに発想の原点を聞いてみた。
 
 

商品開発は産地・生産者・業者同士の「つながり」が大切

 ㈱ダイナックはイタリアン、居酒屋、バー、カフェなど多様な業態・ブランドを擁し、関東・関西を中心に243店(2012年3月末)を展開する。トップブランドの「響」は、銀座や丸の内、新宿などに立地し、標準店舗規模は120坪150席。店舗により内装は異なり、天然石や古木などで質感を創出し、夜景が眺められるカウンター席を設けるなど瀟洒な空間を演出する。「産地や生産者が明確でグレードの高い素材」にこだわり、素材の持ち味を活かしたシンプルな調理が基本だが、味を引き立てる職人のひと技で質の高い料理に仕上げている。メインターゲットは企業の役職者など40代~60代の男性客で接待利用も多い。客単価は5500~6000円、原価率は27~28%で推移している。

――まずは「響」のメニュー改定の頻度と開発までの流れをお聞かせください。

 グランドメニューは半年に1回変更し、その他、3ヵ月サイクルの「旬特撰」や、月替わりの「今月の特撰」メニューもあります。それぞれのメニューの改変に当たっては、どんなメニューを投入するかではなくて、「どんな素材を使うか」が先決です。
 まず全国の産直商品などを扱っている業者に、集めて欲しい素材をオファーします。肉や魚など生鮮の他、練り物などの加工品もあります。ポイントは産地と生産者が見えて安全・安心と、「響」ならではのグレード感を出せる品質の高い素材ということ。そして業者が集めた素材と、当社の購買部が提案する野菜などの中から、私と全店の料理長が協議して使う素材を絞り込みます。最終的にはメニューを考案する5人の料理長と私、調理部長、営業課長などでメニュー会議を開いて具体的な試作品を決め、2~3回の試食会を経て、商品化します。

――「こだわりの素材」とは具体的にどのようなものがありますか?

 たとえば10店舗中2店では長崎・五島列島でその日に獲れた魚介類を使用しています。この魚介は昼ごろの航空便に載せて、夕方4時ころに店舗に納品というルートを築いています。野菜も産直が多く、千葉の農家などで野菜の契約栽培をしてもらっていますし、京野菜については京都錦小路の「川政」という八百屋からの直送品です。さらに看板商品の1つである「コシヒカリ石釜炊き」に使う島根・奥出雲のお米は籾貯蔵で、注文してから精米して納品します。これを奥出雲の天然水で40分ほどかけてじっくりと店舗で炊き上げています。この商品は1店舗当たり1日平均で10食出る売れ筋となっています。

――店舗ごとに異なる料理を提供しているのも「響」の特徴です。

 はい。中でも「今月の旬菜」は店長と調理長の裁量に任せています。テーマは「大分県郷土の恵み」「有機野菜と駿河湾直送鮮魚料理」など、料理長の出身地の郷土料理だったり、旬の素材だったりとさまざまです。もちろん各料理長は産地を訪れて、漁師や農家の方と触れ合って、その想いを受け取ってメニューを作っています。安全・安全で品質の高いものを提供するためには、産地や生産者、さらに中間業者も含めた「つながり」が大切だと考えているからです。

――商品開発の過程においてとくに重視していることを教えてください。

 厳選した素材の持ち味を活かして、シンプルに提供することをモットーとしています。甘みのある素材ならば、甘みを引き出す調理をします。1日平均12皿出る看板メニューの「川島豆腐店」のざる豆腐は、佐賀・唐津の老舗の濃厚な豆腐なので、まずはそのまま味わってもらいます。さらに豆腐の旨みと同時にバリエーションを楽しんでもらうため、熊本・天草の窯炊き塩をつけて食べていただき、最後に薬味を添え、小豆島の生醤油をかけるといった、食べ方の提案をしています。
 また、料理人だからこそできるひと手間、ひと工夫を施しています。「九条葱のさつま揚げ」は、すり身に香りのいい九条葱をたっぷりと入れて、さらに食感を出すために刻んだイカゲソを織り込んで、店舗で1枚1枚仕込んで揚げ立てを提供しています。またチキン南蛮の自家製タルタルソースは、食感と青味を出すために刻んだ高菜漬けを加えています。
 定番人気の京野菜は、3ヵ月ごとに野菜を変更するだけでなく、その都度、新たに3種類のドレッシングを用意しています。たとえば、ミキシングしたトマトをさらに漉して抽出したエキスのみを使ったドレッシングや、京都三大漬け物の「すぐき漬」を使ったドレッシングなど、常に新たなテイストを提案しています。

――調理オペレーションのポイントなどがございましたら教えてください。

 1品1品、手間や工夫を凝らしているので、セントラルキッチンは設けずに、各店舗で手づくりしています。店舗の厨房スタッフは6人で、そのうち調理社員は2~3人、さらに調理師会からベテランの職人を派遣してもらい、プロの集団でオペレーションしています。グランドメニューが約50品、その他、月替わり、季節替わりのメニューがあるので、仕込みのバランスが大事です。あまり仕込み時間がかかるものや、ロスが多く発生するものは、メニューから外しています。

――今後の商品開発に関して改善点、課題はありますか?

 素材からメニューを考えるというのが発想の原点なので、いい素材を見つけ出すことが第一です。常に、より良い素材を探しています。たとえば、牛肉はもう少し安い価格でお客さまに提供したいので仕入れ値が抑制できて、クオリティの高いものがあれば使いたいですね。
 改善したいメニューの1つが、そばです。現在は奥出雲の半生麺を使っていますが、そば専門店の打ち立てにはかないません。かつて生麺を使ったことがありましたが、保存中に風味が落ちてしまうので使用を断念しました。なんとか打ち立てに近いおいしいそばを提供したいと考えており現在は模索が続いています。

――今後の出店戦略をお聞かせください。

「響」は素材調達ルートの確立や熟練した調理人の育成などに時間がかかるため、早急な店舗展開はできませんが、現在のところ都内と横浜に2店の出店をしたいと考えております。またネクストステージ・ネクストブランドとして検討しているのが、「響ブランドの小規模版」店舗です。既存の「響」のように素材を重視した、カウンター割烹的な業態をイメージしています。また、「響」の洋食バージョン(ビストロ風)も考えております。物件次第ですが2012年の秋頃を目途に中目黒や恵比寿、池尻あたりに出店したいと考えています。

「響」の売れ筋上位5品

DATE

㈱ダイナック
東京都新宿区新宿1-8-1
TEL:03-3341-4217
設立:1958年3月
資本金:約17億4000万円
店舗数:243店(2012年3月末現在)
年商:約326億7300万円(2011年9月末現在)
従業員数:992人(2011年9月末現在)
http://www.dynac.co.jp/

 
 
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