ワタミファームの規格外品を商品化してヒットを飛ばす
ワタミの創業は1984年に遡る。1992年に居食屋「和民」を出店、1990年代後半は「和民」の出店と並行して語らい処「坐・和民」、居食屋「和み亭」、炭火焼だいにんぐ「わたみん家」などの業態を開発。現在のワタミフードサービス㈱は、2006年にワタミグループの子会社として設立、外食分野を担う。現在、同社の店舗数は636店(2012年3月度)にのぼる。「和民」は3月時点で183店。焼き物、揚げ物、煮物、刺身、サラダ、デザートなど多彩なメニューを揃え、20代~50代までの幅広い客層を獲得する。また近年、業態年数にともない20代~30代前半の比率が下がりつつあることから、この世代を呼び戻すためリニューアルを実施。これまでいくつかリニューアル店舗を試験導入してきたが、2011年から展開しているJAPANESE DINING 「和民」に統一。土壁や天然木、格子などを使った「和」がテーマのシックな内装で、2012年度中に全店の改装を完了する予定だ。さらに2012年2月に改変したグランドメニューでは、国産、チルド(安全・安心)、手づくりにこだわった「和民の本気」をキャッチフレーズにしたメニューを導入している。
――まずは商品開発の流れを簡単に教えてください。
グランドメニューは年2回、特撰メニューは年6回、宴会メニューは年2回変更し、さらにスポットメニューを不定期に投入しています。流れとしては、年間のメニューの方針を基に商品企画部が戦略・戦術を立て、具体的な商品設計を進めます。そして試作品を桑原(社長)が試食し合格したものが商品化されます。試作品に対する商品化率は1割、例えば試食会に100品出せば承認をもらえるのは10品ほどです。ただ、実際に提案する商品の2~3倍のメニュー数を試作しているので合格率は3~5%といったところでしょう。
2012年2月のメニュー改変では集中仕込みセンター「ワタミ手づくり厨房」を活用して、焼鳥や炙り〆サバなど居酒屋の定番メニューをブラッシュアップしました。また、20代~30代の若年層や女性層を取り戻すために、和民ではこれまで取り入れなかったメニューを企画・開発しました。たとえば、今ブームとなっているバル風のメニューや、韓国料理さらにカフェメニューなどがそれにあたります。
――メニュー価格やボリューム面などでは、どのような戦略を取っているのでしょうか?
「和民」は客単価2700円の中でクオリティを追及しています。1品の単価が高いと「和民は高い」というイメージにつながってしまいますし、また女性客などは少量で多くの種類を食べたいというニーズがあるので、この2月のグランドメニューの改変では、価格ラインを見直しました。それまではポーションを大き目にして599円、699円という価格でバリューによるお得感を打ち出してきましたが、今回は199円、299円、399円、499円と100円刻みで4つのラインを中心にしました。このうち199円は初めて設けた価格帯です。これは、1品単価を下げても客単価を落とさないというのが狙いで、最後に「もう1品」の注文を取りやすいスイーツで主に展開しています。
もう1つのポイントが料理のポーションです。価格が下がっても、単にその分ボリュームが少なくなったというのでは魅力がなくなりますので、お客さまにとって「値ごろ感」のあるポーションにしています。また一部のメニューでは、価格を下げても値下げ前のポーションを維持しているものもあります。
――商品の調達や物流面においては、どのような取組みを行なっていますか?
ワタミでは1次産業の農業(生産)、2次産業の集中仕込みセンター(加工)をグループで展開しています。2002年に設立した自社農場ワタミファームは、全国9ヵ所、約490haまで広がり適切な品質管理のもとで有機野菜を生産しています。「和民」では有機野菜のサラダなど積極的に使用しています。また集中仕込みセンター「ワタミ手づくり厨房」を全国各地に配しており、ここでは食材に関する法律を順守し、適切な品質管理のもとで製造された食材だけを使用、十分な温度管理のもと仕込み作業を行なっています。製造された食材は、一部の食材を除き、当日のうちに、温度管理された配送車で各店舗に届けられます。、生産から加工・流通の段階で安全・安心さらに品質の確保に取り組んでいます。
――商品開発で独自な手法やこだわりなどはありますか?
2011年3月に、手づくり厨房を運営するワタミ手づくりマーチャンダイジング㈱と、農産物の販売を担う㈱ワタミファームが合併しました。生産と仕入れ部門が一体で運営を行うことにより、農場の生産性や手づくり厨房の稼働率が向上し、より安全・安心な商品の供給体制の強化につながっています。
具体的には、ワタミファームではこれまで物流の効率化のために規格外の野菜を選別していました。けれども、規格外でも野菜の品質に問題があるわけではありません。そして選別作業というコストも発生するので二重のロスが発生していました。この問題解決の1つの手法として、規格外品を商品化する取組みをスタートしました。その代表が規格外品の有機ニンジンをはじめとする野菜を集めて開発したドレッシングです。店舗では春のメニューとして「ワタミファームで収穫された有機人参ドレッシングで食べる17品目の弥生サラダ」のドレッシングとして使用しています。お客さまからの評判が非常に高くヒット商品になったことから、このサラダのシリーズ化を決めました。次は、タマネギのドレッシングを投入することになっています。今後も有機野菜を積極的に活用し、手づくり厨房の強みを活かした効率化を積極的に進めていく方針です。
2月のグランドメニューで導入した「和民の本気」を表現したメニューでは、長崎で獲れたサバやアジを各店舗にチルドで納品しています。「豪快! 卓上炙り〆サバ」は、お客さまの目の前でバーナーで炙って提供するパフォーマンスが好評です。行く行くは鮮魚も手づくり厨房を活用して納品したいと考えています。
さらに安全・安心な食の追求という意味では、2003年から化学調味料を中心に添加物を削減するプロジェクトに取り組んでいます。
――店舗オペレーションで工夫していることは?
多くのカテゴリーの商品を揃え、メニューも頻繁に変更するので、現場に過度な負担をかけずにおいしく調理できるオペレーションにすることをポイントにしています。たとえば、売れ筋ナンバーワンの商品で、「自慢の自家製餃子」は、手づくり厨房で皮からあんまで手づくりし、成形して冷凍の状態で各店に配送。店舗では注文を受けてから冷凍のままフライパンで焼き上げて提供しています。解凍をしないのは解凍方法を間違えるとベタッとしてしまうからなのですが、そこで冷凍で焼いても味や品質が落ちないオペレーションをかけてつくりあげました。
――今後、強化していきたいメニューはありますか?
炙り〆サバのクオリティは、400店規模のチェーンでは画期的な試みだと思います。一方で、チェーン店を卒業された方へ提案する小商圏型の業態、居食屋「炭旬」では、店内調理を残しています。店舗で生サバをさばいて〆サバに仕上げて提供しています。できれば和民でもそのレベルまで引き上げたい。実際にはなかなか難しいことですが、それに限らず、すべてのメニューの品質をブラッシュアップし、専門店のレベルまで引き上げることがワタミの商品開発の使命であると我々は思っています。
DATE
ワタミフードサービス㈱
TEL:03-5737-2834
設立:2006年2月
資本金:1億円
店舗数:636店(2012年3月度)、内、「和民」183店
年商:768億4200万円(2012年3月期)
従業員数:1701人(2011年3月31日現在)
http://www.watamifoodservice.jp/
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